大人の恋は波乱だらけ!?

「創作意欲ね……。
お前俺がどんな小説を書いてるか知って言ってるのか?」

「え?知らないですけど……?」


新條さんのイメージからしてミステリーだろうか?
首を傾げる私を置き去りにして、新條さんはどこかへ行ってしまう。
どうすればいいか分からず、座ったまま待っていれば直ぐに彼は戻ってきた。
新條さんの手には紙の束が握られている。


「読め」


バンッと音を立てながら机に置かれた紙、もとい原稿用紙を呆然と見つめていれば再び低い声で読むように促される。
意味は分からないが言われた通りに原稿用紙をめくった。


「……なっ!?」


読み始めて直ぐに私の頬は熱を帯びていく。
この小説はミステリーでも時代物でも恋愛物でも何でもなかった。


「か……かん……官能小説!?」


勢いよく原稿用紙から目を逸らし新條さんの顔を見る。
素知らぬ顔でケーキを食べる彼、でもその口元は僅かに緩んでいた。
私の反応を楽しむかの様に黙って私を見ている。

私はというと原稿用紙を机の上に置き俯く事しか出来なかった。
読んだ瞬間、普通の小説とは何かが違った。
心を煽るような文章は思い出すだけでも恥ずかしくて顔が熱くなって何も考えられなくなってしまう。


「感想は?」


楽しげなその声に腹が立つがそんな余裕は今の私にはない。
初めて読んだ類の小説に高鳴る鼓動は自分では抑えられない。
まともに新條さんの顔を見ることが出来ずに俯きながら口を開く。


「思ってたとの違って……ビックリしています」

「これで分かっただろう?
お前みたいなガキじゃ俺の小説の役に立たねぇよ」

「が……ガキ!?
私は23歳で、もう立派な大人です!」


ガキと言われた事が悔しくてムキになって言えば新條さんは馬鹿にしたように鼻で笑った。


「大人ね大人、はいはい」

「何ですかその言い方は!」

「もう話は終わりだ、ケーキ食ったら帰れよ。
俺は忙しいんだ」


そう言って立ち上がる新條さん。
やっぱり無理だったか。
予想はしていたけど実際に結果が見えると哀しくなる。


「……」


自分でやるしかない、そう思って諦めようとした時

頭の中には高梨部長の顔が浮かんだ。
私の為に社長に啖呵を切ってくれた高梨部長。

このままじゃ彼の役に立つどころか足手纏いになってしまう。
そんなの、そんなの絶対に嫌だ。