「そんな…」

僕は膝から崩れ落ちた。彼女は玄関先で嘔吐していた。

「もう少しで…。もう少しで完全な人間になれたのに…。なんで、なんで勝手に死んでるんだよぉぉ!!!このクソババァ!!!」

僕は自らの母親の首吊り死体を、サンドバッグのように蹴り回した。蹴りが一つ当たる度に、死体に開いた無数の穴から蛆が飛び出て、地面をのたうちまわった。それを見て、彼女はまた嘔吐した。

母親の死体に当たり散らして、そこら中に喚き散らして、僕はへとへとになって仰向けに寝転がった。背中越しに蛆の潰れる感触がしたが、もうどうでも良かった。

もう、僕は完成品にはなれないのだから。

遠く、サイレンの音が聞こえた。きっと、あのカウンセラーの死体が見付かったのだろう。僕はすぐに捕まるだろう。凶器も残して来た。カルテもあるだろう。

平穏は無い。全てが、失われた。