ふっ、と野次馬の中にいた少年と目が合った。
 
「お兄ちゃん、どうして見ないの?凄いぜ」
 
少年の無邪気で残酷な瞳が、僕に話し掛けてくる。僕の視線を、そちらに誘導しようとしてくる。
 
見てなるものか。
 
僕は必死で少年の誘導とは逆の方向に視線をずらそうとする。額にうっすらと脂汗が浮かんでくる。
 
見てはいけない。見るべきではない。
 
心拍数が上がっていくのが分かる。表層の意識とは逆に、僕の首は少年の誘導へと従っていく。
 
信号、標識、横断歩道…。散らばるプラスチックの破片に、ガラス片。
 
そして次第に、だらりと横たわる足元が見えてくる。
 
見たく無い。見たく無いのに!!
 
血の海の中に横たわる、黒いライダースーツ。それが微かに痙攣するごとに、微かな水音がしている。
 
ここまで来れば手遅れだ。見てしまったものは仕方が無い。
 
僕はそんな諦めの念と共に、体中の力を抜いた。