それぞれの崩壊

混乱する意識を掻き分けて、僕はまた違う光景にたどり着いた。

僕の足元には割れた皿。前を見ると、母が立っている。

「どうして!?なんであなたはそういう事をするのよ!!ママの大切にしてたお皿をこんなにして!あなた来年から小学校に上がるのよ。」

僕はひたすら俯いて、「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」を繰り返している。

「ママはいつも言ってるわよね!人の痛みを分かる人になりなさいって。あなたのパパはね、人の痛みが分からない人だったのよ。だから私たちを置いて出ていったの!だからあなたは…せめてあなたは人の痛みを分かる人になってちょうだい!!」

僕の中に激しい嫌悪感が湧き出てくる。やめてくれ!その言葉を言わないでくれ!

痛み!痛み?痛み…。

なんだ?痛みとは何だ?何故僕が他人の痛みを分からなければならないんだ?

そうだ、受け入れちゃいけない。母の言葉を従順に鵜呑みしてはいけないんだ。幼い僕は彼女の言葉を完全に理解しないまま、言葉通りの意味で解釈して体に染み込ませてしまったのだ。

そしてそれが僕の深層心理に染み付き、誰かの痛みに遭遇してしまった時にそれが呼び起こされるようになってしまったのだ。


僕の頭の中でカタルシスが起こった。今ここで、母に反論するんだ。はっきりと。僕は他人の痛みを分かる人間になんかなりたくない、と。


僕は勇気を振り絞ると、母の顔を見上げた。