羅生side



「――おい、逃げるな影山!!!」


後ろから、そんな怒号が聞こえてくる。
怒号を無視し、俺はひたすら廊下を走った。


「や、教頭先生!!逃げなかったら怒られるって分かってんのに、逃げない奴はいねーよ!?」


後ろから走って来る教頭先生に、そう言うと、「なんだと!?」と、ますますお怒りの様子。やっちまった。
俺は、影山羅生(かげやまらい)。‥‥後ろからドタバタと音を立てて走って来る、禿げている‥‥‥、教頭先生が追いかけている本人。
なにやらかしたって?別に、ただ―――――――、



「――校長室の花瓶を割って、怒られないで済むと思ってるのか!?」


そう、校長室の花瓶を割っただけ。え、別にそれくらいいーじゃん。校長先生なんて、花瓶くらい余裕で買えるだろ。
なーんて考えながら、生徒達でごった返している昼休みの廊下を走り抜ける。


「こらぁぁぁぁ、待ちなさい!!」


(‥‥やべー、このままだと埒が明かねえ。)


どうやって教頭先生の視界から外れようかと考えていると、ふいに廊下についている窓が目に入った。
‥‥お、使えるな。そう思い、廊下の窓に近づき、手をかける。


「ちょ、なにするつもりだ!?」 


突然の俺の行動に驚いたのか、素っ頓狂な声を出す教頭先生。なにって、分かんないんスカ。窓から飛び降りようとしてるんすよ。‥‥なーんて、言わないけど。


「ちょ、早まるなぁ!!」


窓の枠に足をかけた俺を見て、教頭先生は必死に止めようとする。
廊下にいた生徒達は、俺がなにをするのか分かっているのだろう、面白がって笑っていた。


「‥‥だ、ダメだ!!飛び降りてはダメだ!!な!?なにかあったなら、話を聞いてやるから―――――、」


「教頭せーんせ、」


俺はいよいよ、窓から身を乗り出し、教頭先生の顔は真っ青。‥‥教頭先生、スイマセン。




「――では、さようなら。」


そう言って俺は、窓から飛び降りた。