引っ越す…こ…と…に

涙が溢れそうになったからグッとこらえて前を向く。

「おめでとうございます、○○さん…」

僕は笑えているだろうか。幸せになってと心から言えているだろうか。

「トイレ借ります…」

「あら、大丈夫…?」

雅樹さんっていうのか、旦那さん…幸せの絶頂って感じだ。

水を流すおとが聞こえている間、僕は頬に滴を垂らしていた。



「赤ちゃんはね、女の子かもしれないの。なんて名前にしようかしら?ヒビヤ君、いいのある?」

「ひまり…か、優妃」

「ひまりとゆうひ?」

「うん…優妃って、夕日でもいいんだけどね。ずっと太陽のように明るく照らされ続けて生きてほしい。
ひまりは、漢字は決めずにあえて平仮名にしたい…はは。」

ツゥ…

「えっ…?」

びっくりした。唐突だった。いきなり○○さんが泣き出すもんだから。

「私たち引っ越してきてまだ2年…なのに、こんなにも真剣に考えてくれる人が側にいるところで生きていたのね…。ヒビヤ君に会えたことが奇跡だとおもうわ。
この二年間ホントにありがとう…」

「やめてくださいよ、こっちまで…」

僕たちは、二人で向き合って二時間ほど泣いていた…




彼女たちは引っ越していった。わずかな期間だった。

その間にたくさんのことがあった。日和のこと。恋をしたこと。チズルのこと。

でも、有意義な年だった。



「ヒビヤクン、今日はなんか笑顔だね。」

「チズル…分かるか?いいことがあったからさ。」

ニコッと笑顔を交わして教室にはいる。

いつもと変わらない。

だが、清々しくみえるんだ。

『ヒビヤ君!
元気な女の子と男の子の双子が生まれたよ♪大地と夕日と命名しました。
大地をいつまでも照らす夕日でありますように…ヒビヤ君!元気ですか?たまにはお手紙くださいね(^^)
新米ママも、頑張るよ!
頑張れ!ヒビヤ!』


『好きなんだよ…』

この言葉の意味を、僕は今なら理解できる。

日和が背中を押してくれたから…