「おはよう、ヒビヤ君。この間はどうもね。」
「…おはようございます。この間って何ですか?」
「桃よ、桃。美味しかった!」
「…ずっと前じゃないですか。桃は。…それでは。」

なんだか最近俺らしくない。あの人は能天気なのに。

届かないのに。
冷たく当たってしまった。

虚しさだけがあとに残る僕の心は、冷たく、凍えた冬のようだった。

厚い教科書の入ったランドセル。僕の右手にかかった青色のストライプ柄のバッグはかつての想い人、日和のものだ。

僕をかばって…トラックにも、鉄棒の下敷きにも…

日和は助けられたんじゃないか。生きていたんじゃないか。

そんな風に思っているくせに誰かを好きになるなんて、僕はなんて人間なんだろう。日和だって、呆れてる。

「そうそう、ヒビヤ君!今日帰り、寄っていきなね!」

「…え?どこに?」

「私の家に!話があるのよ♪」

「…はぁ…?」

なんてことだ。呆れる。

彼女と放課後また会えることが約束されて浮かれているなんて…!

「ヒビヤクン、なんだか元気?嬉しいことがあったのかな?」

隣の席の青山チズルが、こちらを向いてにこにこしてる。

恋かな?とか、青春だね、とか。

おばさん染みたことばかり言う。

プフッ。思わず笑ってしまった。そしたらチズルは目を真ん丸くして

「笑ったの初めて見たよ。」

と言った。

「日和も喜ぶね。」

僕は顔を歪めた。日和?なんで、日和が出てくるんだ。

「知らなかったの?ヒビヤクンが笑うと日和も必ず笑うこと。
影でヒビヤクンのいいところばっか、言ってたんだよ。日和にとって、ヒビヤクンは…」

「やめてくれ。」