初めて来たときに
二人で壊したドアをくぐって
屋上へ出る。

「寒いね。でも風が強くないから…」

境本が錆びかけのフェンスの方に
歩いていってしまったせいで
声は途中で聞こえなくなった。

境本はフェンスをつかんで
見慣れてきた町を見下ろす。
隣駅の繁華街の方が
ここからは近くてそこだけは明るい。
ここよりもずっと高いビルが
夜を彩っている。
傍によると境本は
フェンスを背にしてこちらをむいた。

「明るくて、眩しいね。星が見えなくなるくらい。」

「…きれいだと、思うけど」

「どこが?」

見下ろして、
冷めた表情で境本は続ける。

「蛍光灯を見つめても目が痛くなるだけだよ。明るすぎる世界を作ったせいで天球の星たちがみえないじゃないか。バカみたい。自分たちの作ったものだけが美しいと思う人間が嫌い。」

「そんなに嫌なものかな」

「嫌だよ。私は人間が嫌い。それはもうアレルギーってくらいに」

「自分が同じ人間でも?」

「私は私も嫌いだよ。今すぐ死んでしまいたいくらいに」

「……知ってる」