「松本はバカだね…」

その声は優しい。
優しく、静かに降ってくる。

ゆっくりと体をおこし
境本を見る。
静かに笑いながら境本は
こちらを見ていた。

「それはどういう意味の顔なの?」

「呆れてるんだ。君が馬鹿で可愛いから。いつも私のこと見てるだけかと思ってたら、君の中身はそんなだったんだね。」

「そうなんだ。しょうもないだろ?」

境本は窓の外を眺める。
春と冬が混じりあって
鮮やかな青空と
ぼやけたような薄い白雲が綺麗だ。

「松本」

「ん?」

「月がきれいですね」

悪戯を成功させた子供みたいな笑顔。
境本が今、手に入れたもの。
俺が見つけたもの。

「……Yours」

白昼の光に包まれた
小さな病室。
カーテンの仕切りの中で
俺たちは初めてキスをした。