「君に死んでほしくないよ。」

殺してあげると言ったのに
君に死んでほしくないと言う。
なんと芯のないことか。

でも、
境本が死ぬかもとわかった瞬間、
恐怖に追い立てられた。
一歩一歩が遅くて
冷静さなんてどこかに置き去りで
屋上に急いだ。
冷めてる自分を忘れるくらいの焦燥。
客観視なんてする間もないくらいの衝動。

「ね、境本。俺もきっと君と一緒だ。この世界に失望してたよ。夢も希望も、抱いていやしなかった。時間に落ちていくだけの、終わりを待っていたんだ。何も残らないって、意味がないって知ってたから
でもね、境本。ここにあるのはそんなのどうでもいいくらいの、熱情だよ。生きる意味とか、理由とか、全部、君と居たいからで充分だと思える。」

俺にもちゃんとそれがあった。

何もないわけじゃなかった。

「…好きだよ、境本。君のことが好きだよ。もう、打算も損得勘定もなしにただ君だけを好きだよ。」


死にたい君が生きたいと思ってくれたら
それが俺の理想になる。
君の苦しみのあとだけが
傷痕だけが残る肌を愛す。

この暗闇が明けるように
救いのない恋をあげる。