図書室閉館時刻まで
黙って勉強してから、
松本の自転車に二人のりして
いつもの廃ビルに向かった。

屋上のど真ん中、
少しだけ冷たい風が吹いている。

「境本?」

松本の呼ぶ目の前に座って、
彼の手に体を委ねた。
松本は髪をなでて、
耳に触れて、首筋の古い傷痕に
指を這わせる。

死にたい私の証。

まだ、私は死にたい。
でも松本のことを好きになる?
それってなんて二律背反。

ここは眩しすぎて星空は見えない。

ポケットの中に手を入れて、
中にあるカッターで左手の人差し指を
切りつけて血が出る程度の
浅い傷をつくる。
血が溢れるように吸い出してから、
松本の唇にぬった。
赤い唇が救いを得たような
笑顔に変わって、
松本は迷いなく指を口に含んだ。
生暖かい柔らかな舌が、
できたてのヒリヒリと熱をもった傷に
唾液を染み込ませて、血をなめとる。

「ふふっ…」

馬鹿馬鹿しい。
私の愛しい地球、理想の世界。
みんなあるはずないのに。
この星に私たちが生きている限り、
死につづけていく。
殺しつづけていく。
馬鹿馬鹿しい。

「…やっぱり、死にたいなぁ…」

何も変わらないよ、松本。