「境本、まだ死んじゃだめだよ」

電話の向こう側で
泣く声が聞こえる。
その声に近づくために
自転車を走らせて、
階段を昇って、
扉を開けた。

「…境本」

軽音部の下手くそな
ドラムが遠くに聞こえる。
誰もいない教室の机に
突っ伏して、彼女は泣いていた。

「境本、こっちを向いて」

「…会いたくないって言ったのに……!」

「俺は会いたいって言ったでしょ。学校来てたなら、ちゃんと図書室おいで。君がいないと、俺は寂しいよ」

冷えた指先を包みこんで温める。
走って階段を昇った分の
息切れが収まった頃に
境本がやっと顔をあげてくれた。