「…境本」

泣いてないなんて言う彼女は
嗚咽も声の震えも隠せていない。
どこかで彼女が
一人ぼっちで泣いている。
そばに行きたい。
慰めたりはできないけど、
泣いている彼女のそばに居たい。

どこだろう。
風の音はなくて。
車の音はなくて。
人の声もなくて。
すごく遠くで音楽が
聞こえている。
屋内だろう。
人がいなくて
電話ができる屋内?

「…たし、嫌いだよ。みんな嫌、いなの。この地球を汚すのがイヤ。この星を汚さないと生きていけないのがイヤ。この星を所有した気になって汚す人間がイヤ。その人間と同じ自分がイヤ。汚さないと生きていけないのがイヤ。みんなイヤなのに変われない私がイヤ。」

「…俺は好きだよ、境本のこと。」

「だから、君は普通じゃないのっ」

「うん。俺は普通じゃない。」

ポケットに入れていた
マイクイヤフォンを
スマホに接続して自転車に
またがった。

風の音がマイクに入らないよう
気を付けながら
境本の場所にむかう。

大丈夫、心当たりは
一つしかない。