しょうがないから
その傷口にキスをする。
境本はいつもこういうことを
するとびくりと体を
震わせて反応する。
俺の手を
振り払いたそうに肩に力をこめて。

逃げだしたいくせに
苦しそうな顔をこちらに向けて
まっすぐに俺の目を見てる。

「こういうことをするのはいいんだ。俺を好きじゃない、境本さん?」

「いいんだよ。私はずるいから。だって松本なら、私のことを殺してくれそうでしょ?」
「死にたいの?」

「死にたいよ。いつだってこの命を止めたいの。でも、もう自分じゃできないよ…。」

「…じゃあ、」

口を開く。

俺が吐くのは君を助けるお呪いで、
君を俺のもとから遠くにいって
しまわないようにするための呪い。

「君が本当に死にたくなったら、俺のこの手で、君の頸をしめてあげる。君の背中をおしてあげる。君の手首を深く切りつけてあげる。」

境本の暗闇を湛えた瞳が
正面から俺をみる。

「それでもし君が死ねたら、追いかけてあげるから」

「…松本が一緒に死んでくれるの?…私と一緒に、死んでくれるの?」

「君を殺して俺も死ぬってやつだよ。」

「今、少しだけ君に恋しそうになったよ。」

「本当?それは嬉しいな。」