「……………おーい…」

静謐な書架に囲まれた空間。
ほとんど人のこない図書室の一階で
そいつは倒れていた。

「…仕事をしてくれないか」

「それは難しいな。本棚の整理をしていて、面白い本が在ったら取らずにはいられないだろう?」

「さも当たり前のように語るな。百歩譲って座って読んでくれ。」

「これも言おうと思ってたんだが、いまものすごい貧血で動けないんだ。」

そいつが、境本紫織子が
ページを捲りながら言った。

「……はぁ、またなのか…」

境本の顔は青白く
血の気の通っていないように無機質だ。
平然と本を読んでいるかにおもえたが、
よく見ると指先は震えていた。
心なしか呼吸も荒い。

「あっかんべぇってしてみろ」

「下瞼を見るだけなのだから舌を出す必要はないよね」

「うん、真っ白だな。貧血だ」

「最初からそう言ってる」

以前無理そうならその場で
回復するまで待てと言われたので
保健室まで無理に
連れていくことはしない。
しかし倒れたままも困るので
一度二階のカウンターまで行き、
境本の鞄の中から薬と栄養ドリンクを
持っていってやる。

「いつもすまんね」

「もう慣れた」

効いているかは分からない(境本談)
鉄分入りの栄養ドリンクを飲んで、
また転がった。