『忍姫恋絵巻』


「だから、嫌だったのに…」


ただ1人の主をもつ勇気も責任も、あたしには無い。
心を裂いて、その人を思っても、守れなかったら…。



『才氷!!』


ふいに、家光の笑顔を思い出した。


『才氷は、私のおうじさまみたい!』


また、あたしを信じて待ってくれてるのかな…?


大事な人達を守る為に力がほしいって思った。


また大切な人を失って泣くの?
なんのために強さを求めたの?
才氷、なんの為に強くなったの?


「死なせたくない…」


今はあの頃のあたしとは、違うんだから、幼く弱い自分より
強くなったはず。


「家光を死なせない…」

「才氷!!!」

赤の声が聞こえる。
それともう一つ、風を切る音がした。


ビュンッ


「矢?」
 

ガシッ

そう言ってあたしは右手で矢を捕まえた。


「嘘だろ…」

「矢を素手で」

「何者なんだ…家光様は」

あちらこちらから、どよめきが聞こえる。


「…うるさい…」


うるさいうるさい…。
今、あたしは家光の事でいっぱいいっぱいなの。

あたしは俯いた。
その瞬間、風か止む。