『忍姫恋絵巻』




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『おや、これは可愛い来客だね』


完全に落ちた意識を浮上させたのは、優しく包み込むような、聞き覚えのある声だった。


「え?」


驚いて顔を上げると、そこには桃色の長髪と瞳を持った、柔らかい雰囲気の青年が立っていた。


「嘘……っ…」


桜の…精みたい、まるで、この世の人じゃないみたいに綺麗だと一瞬にして目を奪われたのを思い出す。


『やぁ、才氷』


その儚さに、幻かと錯覚する。


それでも、この人はまるで「また会ったね」くらいの軽さであたしに笑みを向けるのだ。


「在政様っ……」


また会えるなんて思わなかった。

ここは、天国だろうか、それとも本当にあたしの願望が見せた幻??



『毎年、春になると決まってこの桜の木で昼寝をしていたね』

「桜……」


辺りを見渡すと、あの桜牙門の桜の木があった。
ここは、まるで春の温もりに包まれているかのように温かい。



『才氷は自由な鳥だ』


不意に、在政様にその手を握られた。


「在政様、あたしはもう……」


自由じゃない。


きっと死んでしまったのだ。
だから、ここは天国で、在政様と話す事もできているんだろう。


『温かい季節になると、桜の木に止まり、羽を休めて…。そして、春が終わると、どこかへ旅立つ』
  

在政は柔らかな笑みをあたしに向けた。



「あたしは、もう戻れないのです。あの場所には……」


赤、家光……。
あなた達のいる、あの世界には……。


家光の作る泰平の世も見届ける事が出来ないんだ。