『忍姫恋絵巻』



「よく来たな、徳川 家光よ」


広間に通され、入ったとたんに、この世で最も憎むべき相手に声をかけられる。


かっかりしなくては……。


今にも斬りかかりたい衝動を抑えて、あたしは上段にあぐらをかく織田 信秋に笑みを向けた。



「お初にお目にかかります、私が、徳川 家光と申します」

「ほう、噂は本当であったか。家光殿は、アレに似ておる」


信秋はにやりと嬉しそうにあたしを見つめた。


「アレ、とは?」

「俺の…手に入れたい女よ」


……っ!!


心の中で悲鳴を上げる。体は冷や汗をかいていた。



「服部 才氷にございますね」


そこに、御子柴が声をかけた。


織田 信秋、御子柴……。
こいつらに奪われたモノを、今日この日に全て奪い返すんだ。



「して、文にはどうしても会って話したい事があるとの事だったが…」

「お察しだとは思いますが、和平の提案をしに来ました」


凛と、胸を張って静かに告げる。


「和平とは、具体的に何を結ぶつもりか」


信秋の言葉に、あたしは頷いた。


「現に、徳川についた諸領地は数万。あとはここ、織田の地のみです。そして、結ぶ条件とは、戦力を持たない事、です」


織田は孤立した領地であるという脅しと同時に、断ればすぐに戦を起こすという宣戦布告。


たぶん、信秋は誰よりも負けを嫌う。
だから……。