「徳川 家光様、こちらへ」


織田の城前で、あたしだけが中へ促された。



「まて、我が領地の大切な将軍を1人でそちらへやるわけにはいかないのでな、家臣達も同行させていただきたい」



春日局様があたしの前に立ち、織田の使者と交渉する。


「それは出来ん、信秋様は、家光様お1人で来ることをご所望だ」

「そちらの言い分だけを聞くのは不公平だな。では、こちらも100歩譲って、家臣1人で構わない、それなら良いであろう?」


「ううむ……それなら、構わない」



織田の使者は渋々頷く。


すごい、春日局様の狙い通り。
春日局様は、そもそも家臣全員で城に入るのは無理だと踏んでいた。


だから、最初に大きな要望を押し付け、次に小さな要望に変えると、相手は「それなら、しかたない」と妥協する。


春日局様の話術だ。