『忍姫恋絵巻』





「…っ…ひっく……」


宝庫の前までくると、泣き声が聞こえた。
たぶん、家光のものだろう。


「家光、探した」


あたしは扉ごしに、声をかける。


「………っ!?」


すると、泣き声がぱたりと止んだ。


「才氷っ!!!」

先程の泣き声が嘘のように、元気な声が聞こえる。


「全く、心配しましたよ……」


元気な声を聞いただけで、ホッとしてる自分がいた。

不思議……。
家光の悲しい声を聞くと、胸が痛い。


守ってあげなきゃと思う自分がいる。


「中に入ったら、鍵が勝手に閉まってしまったの!!助けを呼んでも、誰も来なくてっ…」

「大丈夫ですよ、今空けますから」


不安そうな声……。
鍵が閉まるなんて、もしかして、誰かに狙われた?


そんな事を考えながら、あたしは外から鍵を開ける。


ガチャンッ

倉庫の鍵を開け、扉が開いた瞬間…。



「才氷ーっ!!」


家光が泣きながら、あたしに飛び付いてくる。

ガバッ


「…っ!?」


家光が勢いよく抱き着いてきたせいで、あたしはそのまま後ろへ倒れた。



「家光!?いきなりびっくりす……」


「……っうぅ〜っ…!!ありがっ…とうっ……!!」


文句の1つでも言ってやろうと思った。
なのに、声を震わせながら、お礼を言う家光を前に、あたしは何も言えなくなる。