『忍姫恋絵巻』

「才氷…早く、ここから離れて。信秋は…すぐそこまで…」

「在政様を置いてはいけない!!」


あたしは、在政様に抱きついた。


あたしの、唯一無二の主。
一人で死なせるなんて、そんな事できない!!



「あり…がとう……」


雨で分からないけど、在政様は、泣いているように見えた。
それがまた、あたしを苦しめる。


「君は…私の……冬の桜の……ようだった」

「冬の桜……?」

「才氷は……私にとって、永遠に枯れない…桜……」


あたしにとって、在政様も、永遠に枯れない桜だ。
毎年、目を奪われて、心惹かれる春の桜だった。


「才氷の……傍に…いる時だけ……は、私は……満たされて……いたよ」


「あたしも!!あたしも、在政様といる時が、幸せだった!!だから、こらからもずっと!!」


傍にいて、笑ってみせて!!
また、桜を一緒に見に行くんでしょ!?


「才氷……ありが……と…う…」

「在政様……?」


そう言って、まるで微笑むように目を閉じた在政様を、呆然と見つめる。


その穏やかな顔は、まるで眠っているようで、今にも目覚めそうだった。



「在政様、在政様ぁっ!!」


あたしは、在政様の体を揺り動かす。
それでも、在政様は目を開けない。


血に染まり横たわる、大切な主の亡きがらを見つめた。


「あたしのせいだ……」


一つ一つの判断が、時として、命に関わる。
自分の浅はかさが、憎くて、悔しくて堪らない。