気配を殺す事はどんな侵入者でも行う事だが、気殺はその究極。

気配を零にする。

気配が全くない状態にするのだ。

するとどうなるか。

人間は視界に入っていても、気配がない者には『いない』と判断する。

例え石ころや草花が存在しても、意識しなければ『只の風景』と認識してしまうように。

気配がない者には『風景』と判断してしまうのだ。

『風景』を警戒する者はいない。

しかし。

「どんなに気配がなくても、夜中にドアが開きゃあ警戒するわなぁ」

「!!」

真っ暗な部屋の中で声がして、伊庭は思わず足を止めた。

…闇の中、ようやく夜目が利いてくる。

目を凝らすと、事務所の奥の大きな窓の前、キャスター付きの椅子に足を組んで座る男の姿があった。