だが、寸前の所で。

「やめとけ雛罌粟」

ヨレヨレのダークスーツを纏った細身の男が、路地裏に入ってきた。

男は巽と雛罌粟、共通の知人だった。

蓮杖 耕介(れんじょう こうすけ)。

私立探偵事務所を営む男で、嘗てはSAT(警視庁特殊急襲部隊)に所属していた。

そういう縁で、巽とも顔見知りだ。

「雛罌粟、こいつは刑事だ。手ぇ出すと後々めんどくせぇ」

「刑事…」

小さく呟く雛罌粟。

そういえば前に耕介の探偵事務所に訪れた巽の顔を、見た覚えがあった。

「蓮杖、お前しっかり躾しとけ。未成年を出歩かせるな。あと無闇に噛みつかないように矯正しろ」

弾かれた煙草を拾いながら、巽がぼやく。