「いろは!いろは!」
ある少年が道路の真ん中に横たわった少女の名前を呼んでいる。
少女の白いセーラー服は紅く染まっていた。
誰かが呼んだ救急車のサイレンがうるさく響いた。

目が覚めるとそこは雲の上だった。絵本に出てくるような景色。
「あれ・・・?ここどこ?」
少女は呟いた。
起き上がろうとすると向こうから人が歩いてくるのに気がついた。
少年は黒髪で服も黒かった。辺りは全て雲で白かったので少年はとても目立っている。
「あのー!ここはどこですかー?」
少女が叫んでも返事はない。ただただこちらに向かって歩いてくるだけだ。
そして、少女の前で少年は止まった。
「ようこそ、ここへ。」
少女はその、「ここ」が分からなかった。
「あのー、ここはどこですか。」
「まず質問していい?」
少年は質問に答えなかった。
「お名前は?」
「安藤いろは」
「いろはちゃん。よろしく。何才?」
「15歳」
「うそ!同い年?てことは中学3年生?」
「そうですけど・・・。」
年下に見られていたことに気づいたいろはは少し不機嫌になった。
「ここに来る前のこと、覚えてる?」
「・・・?ここに来る前?」
「覚えてないみたいだね。君は事故にあったんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、いろはは涙を流した。
「・・・思い・・・出した、わたし、車に轢かれて・・・。」
「うん。君は君が通ってる中学校の前で事故にあってしまったんだ。」
「じゃあ・・・私死んだの?ここは天国?」
「・・・君が泣いてるのは、轢かれた恐怖じゃないね。凄く未練があるんじゃない?」
未練。その言葉を聞いていろははまた泣いた。
透明の涙がに光があたって虹色になり、雲の上に落ちた。