スライムA「ギュィィィィ…。」


スライムがコアを切られ、小さな悲鳴を上げて溶けていく。ここはライム森林、スライムと呼ばれる魔物の住むエリアである。


ノース「ふぅ…わりかし倒したな。けど全くレベルが上がらねぇ…。」


ノースは剣を握る手に力を込め、悔しそうに俯き、つぶやいた。


スライムA「キュルル!」


新たなスライムがノースめがけて飛んでくる。


ノース「っとぉ!」


とっさにノースはスライムを剣の腹で受け止め、弾く。スライムがベチャッと音をたてて地面に落ちる。それを見てすかさず剣をコアめがけて振りかぶる。


ノース「はぁ!」


スライムB「ギュィィ…。」


グチュっという音ともにコアが二つに割れ、スライムが溶ける。


ノース「ふぅ。しかし、スライムばっか倒してるからレベルが上がらねーのかな?ほんと上がってくれよ…スキルも発現しないし。」


ノースが呟いたその時、近くの草むらからガサガサと音がした。


ノース「敵か!」


ノースは剣を構え、素早くあたりを見回す。
しかし、スライムはおろか、動物の影すら見当たらなかった。


ノース「なんだ、気のせいかな。」


安心したノースが腰を下ろし、座ろうとしたその時、森の奥から悲鳴が聞こえてきた。ノースは立ち上がり、声のする方へ向かって走りだした。


ノース「勇者の、俺の出番だな…!」


心の中で、思った。


ノース「はぁ…。はぁ…。」


声のした方へ走ってはや30分、未だに誰も見つからない。しかし、悲鳴は聞こえてくる。ノースは少し、悲鳴を疑い出していた。


ノース「なんかおかしくねぇか。さっきから走ってんのに全然悲鳴の主は見つからないし…それに、なんか変だ。周りの景色がずっと同じな気がする。」


ノースは周りをキョロキョロ見渡した。しかし、視界に広がるのはただの木、木、木。


ノース「まだ声は聞こえるな…。もう少しだけ頑張ってみるか。道に迷わねぇように印をつけてっと。よし、行くか。」


ノースは近くの木に剣で傷をつけると、再び声のする方へ走り出した。かすかな不安が胸をよぎった。


ノース「明らかに、おかしい、な!さっきから景色が変わってねぇ!」


ノースは走りながら叫んぶ。見渡す限りの森、しかも先程傷をつけた木がいけどもいけども、ずっと視界に入っている。


ノース「おまけにスライムは次から次へとふってくるしよぉ!」


ボタッと目の前に五匹ほどのスライムが現れる。瞬時に剣をかまえて振り下ろし、貫いて確実にコアを潰していく。


スライム「ギュイイイ…。」
スライム「ギェィィ…。」


二匹を倒したところで、不意に背後の木の影からスライムが飛び出し体当たりを食らわせる。


ノース「がっ…。くそ!増えすぎだろ!」


振り返り、縦に剣を振りコアを切り裂く。しかし、スライムがどんどん周りの木の影から出てくる。


ノース「いくら何でも多すぎる。何なんだこれは!どうなってるんだ!?」


ノースは右へ左へスライムからの猛攻を避けながら、スライムたちのコアを潰していく。五匹目を倒したところで、再び悲鳴が聞こえてきた。


スライム「ギャーー!!!」


ノースは悲鳴の声の主を見て、驚いた。なんとスライムが、人間の声を真似て叫んでいる。


ノース「おいおいおい…。声の主はお前だったのかよ、スライム…。」


ノースが驚いたのも束の間、スライムが更にボタボタっと降ってくる。降ってくると同時に、
ドン!ドン!と音を立て、体にスライムがぶち当たってくる。骨が、肉が、軋む音と共に血が流れる。


ノース「かはっ…。くやしいけど、これは…もう俺の手には負えないな…。」


口から血の塊を吐きだし、送還を覚悟する。すると、体が突然黒く光り出し、


「そうだな、もう諦めろ。お前の力は魔の力、死することにより目覚める。さぁ、早く死ね。そして我と替われ。」


と頭の中で声が響いた。
ノースは頭の声を不審に思い、頭の声に応えた。


ノース「残念だったな…。ぐっ…。怪我をしすぎたらギルドの転移石が発動して、強制送還させられるのさ…。」


「ふんっ、ギルドのクソ転移石のことか?あんなものはこうすれば…。ハァ!!」


右腕が突然勝手に動き出し、天に拳を振り上げた。


「八尾の力を借りて、あらゆる不可視の力を防ぎたまえ。エリクシール!」


体が紫の光の膜に包まれる。


ノース「な…なにを…したっ…。」


「エリクシールさ。お前は送還されずにここで死ぬ。さようなら、人間のノース。」


ノース「こ…の……。ちくしょう…。」


ノースは全身から血を流しながら、ばたりと倒れた。その直後、スライムたちは一目散に逃げ出した。スライムたちが逃げ出して、二時間が経ったころ、ノースの体淡く光り、起き上がった。


「ふぅ…満ちる魔の力を感じるぞ。やはりコイツ、魔王の種だったか。夢落ちの種とは珍しい…。さて、体も奪えたし、付近の村でもつぶし、城を建てるか。」


ノースはそう呟き、両手を広げて、
「飛ぶ魔の羽よ。我がルーンを聞き、その力を示せ。ウィング」


と、詠唱した。すると、背中から黒い羽が生えてきた。ノースは満足そうに頷き、


「さて…行くか。」


と言い、羽を羽ばたかせ、村へと飛んで行った。ノースが倒れていた辺りは黒く染まり、周りの植物はすべて枯れてしまっていた。