アイン「…思い出した。」


ベッドの上、腕を顔の上に乗せて、呟く。


アイン「あれは…何だったんだろう。…考えても、わかんないな。そういや、ここはどこだろ。」


「ここはギルドの医務室だよ。」


アイン「!?」


気配を全く感じなかったが、どうやらすぐ隣に男がたっていたようだ。腕組みをしながら、男は続ける。


「さらに言えば、お前は今、ありえないくらいの体力消耗のせいで、三日もぶっ倒れてたんたぜ。」


アイン「三日も…。」


「ああ。」


アイン「それで、あなたは誰?ナランハはどうなったの?」


「俺はクエルだ。それと、嬢ちゃんなら今買出しに行ってるよ。お前さんが起きたらぶん殴るって言ってたぜ。何したんだ、一体。」


アイン「そっか。やっぱ詠唱の止め方まずかったかな…。あ、クエル助けてくれてありがとう。」


クエル「あぁ?俺は助けてねぇぞ。俺はクエストをこなしただけだ。お前らのことはギルド長が勝手に転移させて助けたんだ。」


アイン「ん…それでも、ありがとう。俺1人じゃ、ナランハは救えなかった。」


クエル「変なやつだな、調子狂っちまぁよ。」


クエルは照れくさそうに頬をポリポリとかくと、思い出したかのような顔をした。


クエル「おっと、そうだった。そこの机の上に替えの防具と服置いといたから、着替えてギルド長んとこいけよ。ったく、防具もつけずに魔物に挑むんじゃねぇよ。」


アイン「ん、わかった。クエルさん、ギルド長はどこにいるの?」


クエル「ギルド長なら1階で食事してると思うぜ。行ってお前も食ってこいよ。ついでに話とやらを聞いてこいや。角の突き当たりが階段だ。忘れんなよ?」


クエルから言われ、うなずきを返す。クエルは背を向け、扉を開けてどこかへ行ってしまった。クエルが去った後、ぼふっとベッドに倒れ込んで、目をつぶる。目をつぶると、頭にあの声が響いた。


「あなたは力に気づいていないだけ。あなたには、力がある。」


アイン「そんなわけないよ…。ナランハを救ったのは俺じゃないんだから。」


呟いたが、頭の声は返事をくれなかった。5分ほどベッドに倒れていると、不意にお腹がぐぅーっと鳴った。


アイン「お腹…空いたな。それに、ナランハの事も気になるな。」


空腹とともに、不安が頭をよぎる。ベッドから降り、立ち上がる。寝かされていた部屋は真ん中に机と部屋の隅にタンスが置いてあるだけの簡素な作りだった。机の上には、折りたたまれた布の服と革製の鎧が置いてあった。


アイン「ゲームみたいだな。ま、着替えてしまおうっと。」


ササッと服を着るが、鎧の付け方がどうにもわからない。10分ほど格闘して、やっとつけることが出来た。


アイン「まさか着替えるだけで疲れるとは思わなかった。さて、1階のギルド長に会いに行くんだっけか。場所は確か突き当たりの角にある階段を降りたらすぐだったね。」


とつぶやき、1歩1歩踏みしめながら歩いた。首元に現れている五芒星には気づくことなく。