「ぎゃああああ!なんっなんだよ!このくそニワトリ!!」


青い髪をたなびかせ、その髪と同じような青い瞳の少年が叫びながら森の中を駆け抜けていく。


「グオオオ!」


その後ろから、ドスンドスンと音を立て、凄まじい速度で超巨大なニワトリが追いかける。少年は服の上にレザーアーマーを身にまとい、腰には長さ1m程の剣を携えていた。


「おわぁ!」


地面から飛び出ていた木の幹に気づかずに足がつっかかかり、少年が転んだ。


「ちょ、おい、まって?まって!?」


「ゴゲェェェ!」


「俺なんか食べてもうまくないって!マジ勘弁してくれって!」


言いながら少年は腰から剣を抜き、目の前で振り回しながら必死に後ずさる。巨大なニワトリはその様子を面白がるようにくちばしをカチカチ鳴らし、のっしのっしと少しずつ少年を追い詰めていく。


「ほんと何なんだよこのニワトリ!!バカにしてんのか!?」


「何遊んでんだ、ノース?」


ふと、森の中から声が聞こえて、黒いショートヘアーの男がにやにや笑いながら出てきた。ノースと呼ばれた少年のように服の上からレザーアーマーに身を包んでおり、ノースと違い肩には2mはあろう大剣を背負っていた。


ノース「これが遊んでるように見えるか!?はやく助けてくれよ!レジル!」


レジル「はぁ…。たかがニリスに襲われたくらいでビビりやがって全く…。そんなんじゃレベルあがんねーぞ?」


ノース「レベルなんていいから助けて!マジで!食われるから!!」


まさにノースにクチバシが届くであろう距離にニリスが迫っていた。レジルはやれやれという感じで、首を振り大剣を鞘から抜いて突きの体制で構えた。


レジル「大体、掟やぶってねぇなら死なねぇっての。ったく、貫け!波動!スキル・剛閃撃!!」


そう唱え、レジルが突きを放つと凄まじい勢い で剣と同じ大きさのドリルのような塊が発射された。塊はノースの肩口を少し裂いて、二リスの心臓を貫いた。


ノース「レジル!技の精度低すぎだろ!かすってんぞ!」


レジル「ワザとかすらせてんだよ。レベル1」


ノース「レベル1だからってなんだよ!こっちだってレベルをあげようと必死なんだ!」


ノースは叫んで、訴えた。レジルはまたニヤケながら、心臓を貫かれて倒れた二リスの元へ歩み寄っていく。


レジル「ま、それもそうだな。だけど、俺はついてくるなって言ったのにそれでもついてきたのはお前だろーが、多少の危険くらい我慢しろよ。」


ノース「うぐっ…。分かったよ」


二リスのそばまでたどり着くとレジルは腰のポーチから五芒星が刻まれた紙を取り出した。


レジル「分かってんならいいんだよ。さってと、始めるか。」


ノース「転送か?」


レジル「ああ、巻き込まれないようにしろよ?巻き込まれたら怪物の死体と一緒に帰還するハメになるからな。」


そう言ってレジルは目をつぶり、取り出した紙を二リスの死体に貼り付け、両手を合わせ合掌した。


レジル「われ、ここに願う。かのものを安寧結ぶ大地へと、運ばんことを。印象紙・転送」


紙を貼られた二リスの死体が光り出す。
光が目をくらませるほどに強くなった時、キュン!と音を立て、死体が消えた。


レジル「さて、依頼完了だ。帰るぞ、ノース。」


ノース「ああ…ありがとな。」


レジル「気にすんなって。そういえば、レベルは上がったのか?」


ノース「……上がってない…。くそっ…。」


レジル「ぶははは!死ぬ思いしてるのに上がってねぇのか!」


レジルは大笑いしながら、すたすたと森の出口へ歩いていく。その後ろを、ノースがションボリとしながらヒョコヒョコとついて行った。



ポウ…


彼らの背後に小さな光が灯る。


「魔王の種…見つけた。」


小さな光はそう漏らし、ノースの背中から体の中へ入り込んでいった。