ブラックバカラをあなたへ

碧斗side




古樹翔平|《ふるき しょうへい》は、皇夜五代目の副総長だった。




温厚で、誰にでも優しく、聡明な人だった。




何をされても怒ることはなく、優しい目をして全てを受け入れ、許した。




彼に救われた人が皇夜には大勢いる。




松本育|《まつもと いく》は、五代目幹部だった。




男にしては、小柄で可愛らしい容姿をしていた。




皇夜に入った当初は非力だったが、誰よりも努力をして、幹部になるほどの力を手に入れた。




その努力をひけらかすことなく、むしろ、自分はまだやれると思う姿勢が、俺たちを引っ張てくれた。




俺たちは五代目に憧れと、尊敬の念を持っていた。




俺たちと先代は同い年ということもあり、友人でライバルでもあった。




けれど、やはり皇夜の幹部はこの人たちしかいないと、誰しもが思っていた。




この五人がいれば、皇夜はどこまでも強くなれると信じて疑わなかった。




けれど、あの日、全てが崩れた。




その日は夜遅く、みんなで暴走する日だった。




しかし、いつまで経っても幹部の五人は現れなかった。




携帯に電話しても、誰もでることはなく、みんなの不安が募っていくばかり。




約束の時間から数時間後、倉庫の扉が大きな音を立てて開いた。




そこには、ボロボロになった翔平と育の姿。




みんな驚いていた。




その姿にもだが、今まで見たことのない表情を二人がしていたからだ。




憤怒、絶望、悲愴、とにかく今にも死んでしまいそうな顔だった。




何があったのか、場は騒然としていた。




二人は静かに中へ入ると、階段を上り、下を一望できる場所まで行った。




そして、翔平はこう言ったのだ。




『俺たち五代目は解散する』




さっきまでうるさかった倉庫内が、一瞬にして静かになった。




驚き以上の衝撃を、俺の頭は食らった。




二人は解散の理由を説明することなく、六代目の指名だけを終わらせ、下に降りていく。




総長になった喜びなんてあるはずもなかった。




俺は、俺たちは、ずっとこの人たちについていきたいと思っていた。




身勝手すぎると、怒りが湧いてきた。




『俺たちを捨てんのか!!』




俺の横を通り過ぎていった二人に、俺はそう叫んでいた。




二人が立ち止まって、俺の方に振り返った。




二人の顔は、もう生気を失っていて、俺は不覚にも恐ろしいと感じた。




その眼には何も映していなかった。




『…ごめん』




翔平のその言葉に、俺は落胆した。




違う、そんなことを聞きたいんじゃない。




俺は、否定してほしかった。




冗談だと言ってほしかった。




そしたら一発ぶんなぐって、今まで通りバカしようと思っていた。




それなのに…




そんな風に泣かれちまったら、何も言えねぇじゃねぇか…




二人の涙を見たのはその日が初めてだった。




そして五代目は、俺たちの前から消えた。




碧斗side end