ブラックバカラをあなたへ

父の書斎へ着き、ドアをノックする。




少々ためらったが、傍にじぃがいてくれたおかげで少しの勇気が持てた。




「葉音です」




「入りなさい」




中から、穏やかな父の声がする。




私はドアを開け、中へと進む。




父の書斎には本が所狭しと並んでいて、部屋の中心にはガラスのテーブルが1つ。




その両脇に革のソファが2つ、向き合う状態で置いてある。




その奥に、いつも父が使用している机があって、父はそこにもたれながら立っていた。




「本当に来てくれるとは思っていなかったよ。ありがとう」




そう言って、綺麗な笑みを浮かべる。




その表情に背筋が凍る。




“来てくれるとは思っていなかった”




それこそ思っていないだろうに。




父に、私は逆らえない。




それを彼は知っている。




そう躾けたのは、他でもない父自身。




彼は私に恐怖心という名の首輪をはめたのだ。




「ご無沙汰してます、お父さん。それで、私に会わせたい人とは誰でしょうか。もしかして、縁談ですか?それなら私は―――」




「違うよ」




父が私の言葉を遮る。




「葉音が結婚だなんて、面白い冗談だね。ああ、でも、最愛の人を失った今の葉音はとても美しい。やっぱり、葉音は孤独が一番お似合いだよ」




その言葉に、父の表情に、吐き気がした。




私を愛している。




そう語っている目が恐ろしかった。




私は1人が嫌なのに、父はそれを望まない。




私は、また誰かを失うのだろうか…




「少し話がずれたね―――入ってきなさい」




父は、書斎の左奥にある部屋の方を見て、誰かを呼んだ。




静かにドアが開く。




今から会う人物が誰なのか、少なからず興味はあった。




ただ、父のことだから、何か思惑があるのだろうと思うと、やはり恐怖がある。




それでも、私は瞬きを忘れるぐらい、ずっとその方向を見つめていた。




そして、出てきた人物を見て、私は膝から崩れ落ちた。