その次の日、私たちは夕方から倉庫に集まっていた。




理由は勿論、昨日薙が言っていたことについて。




「もし、皇夜の子が見た2人があの2人だったとして、なんで鬼龍なんかと…」




燈が悲しそうな顔をする。




「鬼龍ね…またその名前聞く時がくるなんて…ほんとに虫唾が走る」




春美は怒っていた。




みんなそれぞれの思いを抱いている。




悲しみ、怒り、恐怖、憎悪、後悔。




なぜなら、あの日私たちを攫い、襲ったのが鬼龍だったからだ。




私たちは無残にもこの身を晒された。




あの日の感触は忘れない。




冷たい床、冷えていく体。




だからこそ余計に、私を触る手、生暖かい舌の感触が脳に直接伝わった。




気持ち悪くて、彼への罪悪感で一杯で、涙がとめどなく溢れた。




今すぐ殺してやりたいのに、拘束された身では抵抗しても押さえつけられて終わりだった。




ごめんなさい、ごめんなさい…




それだけしか考えられなかった。




どうして、私はいつもこんなにも弱いの…?




無力な自分に絶望した。




早く終わってほしくて、抵抗すらもやめた。




最中に思い出すのは、雅伊斗の温もりで、涙を流しながら彼の名前を何度も呼んだ。




その度に何度も殴られたけれど、全然痛みを感じなかった。




雅伊斗にはもう、顔向けできないな…




もういっそこのまま死んでしまおうか。




雅伊斗と一緒にいられないのなら、私はなんのために生きたらいいの…?




私はずっとそんなことを考えていた。




「…ごめん。ちょっと外出てくる」




春美が青白い顔で、口元を抑えながら急いで外に向かう。




多分、春美もあの日の事を思い出していたのだろう。




あの日、一番泣いていたのは意外にも春美だった。




泣くというより、叫びに近かった。




きっと、春美の過去が原因だろう。




そんな春美も助けることはできなかった。




「燈、春ちゃんのところ行ってくる」




心配なのだろう、燈も席を外す。




「どうして、あの二人は鬼龍なんかといるのでしょう…彼らを殺したのに…廻さんを殺したのに…っ」




小さな声で優奈がそう言う。




手を握り締めて、泣くのを我慢しているように見えた。




「あの二人が殺されなかったら、優も死ぬことはなかった…」




仲葉は絶望した目で一点を見つめている。




「きっと、あの2人も鬼龍が憎くて仕方ないと思う。それこそ、殺したいほどに」




私がそう言うと、2人は私の考えに気づいたようで。




「まさか…」




「それって…」




優奈と仲葉は信じられないというように、首を横に振る。




けれど、いくら考えても、たどりつく憶測はそれしかなかった。




「復讐…今はその準備期間ってところかもね」




復讐は負の連鎖を呼び起こす。




私たちは、それを止めるべきなのか、見守るだけなのか。