その日の夜。




彼女が涙を流した日のように、2人で同じベッドに入った。




こうして潤ちゃんと一緒に寝るのも最後かな…




そう思うと、どうしようもない寂しさが襲ってくる。




私が静かに目をつむると、左手に温もりを感じた。




それが潤ちゃんの手だと気づく。




私はその手を握り返す。




「葉音さん、ずっと聞きたいことがあったんです」




潤ちゃんが小さく声を出す。




「なに?」




顔だけ彼女の方に向ける。




「言いたくなかったら無視してください。葉音さん…大切な人がいたんですか?」




そう言って、私の方を向いた彼女の顔が悲しそうに見えた。




気づいていたのかな。




「どうして?」




それを探るために、私は嫌な返しをする。




「それは…」




彼女は私の真意に気づいたのだろう、困惑の表情を浮かべて口ごもる。




潤ちゃんは私にとって、大切な存在だ。




けれど、それでも、彼との話になると、私は誰にも心を開きたくない。




惨めで、愚かな私を知られたくない。




だから潤ちゃんも、ここで引いて。




きっと優しい潤ちゃんなら、諦めてくれるはず。




そう思っていたけれど、潤ちゃんの目は私を捉えて離さない。




「私、一度だけ見たんです。机にある写真。勝手なことしてごめんなさい」




そう言って潤ちゃんは目を伏せる。




「あの写真に写っている葉音さんを見て、私は驚きました。初めて、葉音さんの幸せそうな笑顔を見たから。私が見てきた笑顔は、偽りのものではなかったけれど、どこか欠けているんだと思いました」




私はそれに、肯定も否定もできない。




私は、みんなといると楽しくて、可笑しくて、笑う。




それは心からの笑顔だと思う。




でも、ときどき思う。




ここに彼がいたら…




私に欠けているもの。




それは、彼と一緒に歩むはずだった未来。




私の幸せ。




「葉音さん…どうしたらまた、あんな風に笑ってくれますか…私は葉音さんが大好きです。だから、葉音さんには、ずっと笑っていてほしい。だから、彼とのことを教えてください」




彼女の手の力が強くなる。




「何があったかは言えないけど、私は今でも彼のことを愛していて。この世の何よりも大切で。でも、もうここに彼はいない。彼とはもう一生会えない。だから、潤ちゃんの望みでも、私があんな風に笑うことはないと思う…ごめんね」




潤ちゃんが悲しそうな顔をする。




今にも泣きだしそうで、言わなければよかったと今更思った。




「ごめん。今の話忘れて」




「いいえ」




即答だった。




泣きそうな顔をしているのに、目だけは、力強く私を見ていた。




「私は諦めません。きっと、すごく、難しいことでしょうけれど、私は、葉音さんの笑顔を取り戻してみせます。




だから、もう、泣きそうな顔をしないでください」




そう言って、彼女はおでこをコツンと合わせる。




どうやら、私も泣きそうになっていたらしい。




彼女に言われて気づいた。




潤ちゃんにはいつも元気づけられるな…




私の方が年下みたい。




「潤ちゃん、ありがとう」




私はそう言うと、彼女が目をつむって、安心したように微笑んだ。




そして私たちは、手をつないだまま眠りに落ちた。




次の日、潤ちゃんは元気に家に帰っていった。