ブラックバカラをあなたへ

あの日以来、私と廻さんの距離は近くなった。




会話も増えて、彼の表情もどことなく柔らかくなってきていた。




二人だけの時は、手を繋ぐようになった。




彼と手を繋ぐと、安心感があって、いつまでもこうしていたいと思うようになった。




彼は一人暮らしで、時々、お邪魔させてもらった。




モノトーンで統一された部屋は彼らしいと思う。




二人で一緒に料理をして、一緒に食べて、一緒にソファに座る。




そんな時間が、私の中で一番の幸せな時間になった。




だからこそ、余計に、家にいる時間は息苦しくなる。




両親は私には無関心で、弟ばかりを気にかける。




それは昔からのことで、慣れてはいるけれど、彼の温もりを知ってしまって、早く彼に会いたいといつも思うようになった。




『なあ、姉さん、話があるんだけど』




みんなが寝静まった夜。




私の部屋に弟が来た。




弟がこうやって呼び出す時は、大抵憂さ晴らしをする時だ。




弟は両親に多大な期待を寄せられている。




亜火紀家の長男として、立派な当主になるため、いい息子としていなければならない。




けれどそれは、弟を縛り、苦しめる。




『姉さんはいいよな。女ってだけで、自由に生きれてさ』




私はその言葉をただ聞くことしか出来ない。




『あーんな馬鹿な高校に通って、夜遊びも出来て。さぞ毎日が楽しいことだろうな。僕の苦労も知らないでーーー』




ドスッ




弟に腕を殴られる。




床に転げた私を、弟は嘲笑する。




『無様だね、姉さん』




お腹も、足も、色んな所を殴られ、蹴られる。




いつの頃からか、弟はこうして、私を殴るようになった。




こうして、ストレス発散しているのだろう。




私は弟に逆らえない。




弟の言う通り、私は彼が努力している時間、気楽に生きているのだから。




昔は、両親に見てほしくて、たくさんのことを頑張ってきた。




勉強も、運動も、習い事も、作法も。




けれど、私がいくら努力した所で、両親の目が向くことはなかった。




何かで一番をとっても、褒めるどころか、女なのだから、一位をとっても意味が無いと一蹴された。




いつの日か私は、努力することを諦めた。




そんな私が、弟に逆らうなんて、出来るはずもなかった。




殴られるのは痛いけれど、これが弟の苦しみなのだと思ったら私は受け入れるしかなかった。




この具合だと、明日はカーディガンを着ていくしかなさそうね。




痛みの中、冷静に私はそう考えた。