彼、清水廻|《しみずめぐる》は、女性嫌いで、無口な人だった。




彼との接点はただ同じ学校ということだけ。




他の皇夜の人達と仲良くなっても、彼とは話したことがなかった。




高校一年の秋、時代錯誤も甚だしいけれど、私に婚約者ができた。




女性は早く家庭をもって、子供を授かるべきだ、というのが私の家の当たり前の概念だった。




私も別に恋愛には興味がなかったため、その婚約を引き受けることにした。




そして、両家の顔合わせの時、私の目の前に座ったのが、廻さんだった。




初めは驚き、そして疑問だった。




女性が苦手な彼が、何故結婚を、と。




『廻さんは、よろしいのですか?』




『何が?』




『私と結婚することです』




二人で料亭の庭を歩いている時に、そう聞いた。




けれど、彼は一向に答えをくれず、沈黙は続いた。




彼も家が決めたことには逆らえないということなのかと、どこか落胆する自分がいた。




『…お前ならいいと思う』




だから、その答えを聞いた時、私は自分の耳を疑った。




あの空き教室で、共に過ごすことはあれど、話したことはないのに、私ならいい…それは、どういうこと?




頭が真っ白になるとは、まさにこの事だと思った。




その後の記憶は曖昧だった。




そして、私と廻さんの婚約は正式なものとなる。