ブラックバカラをあなたへ

どれぐらい、そうしていたかは分かれないけれど、私が泣き止むまで、私たちはずっと抱きしめあっていた。




少し冷静になり、ここが父の書斎であることを思い出す。




私は、2人から離れ、父の方へ向き直る。




「お父さん…どうか、お願いですから、2人を帰してあげてください」




そう言って、私は頭を下げる。




2人がここにいる理由は分かっていた。




それが、父の意思ではなく彼らの意思だということも。




でも、それでも、2人にはここにいてほしくない。




きっと、2人を説得することはできない。




ここにいるということは、並大抵の覚悟ではないからだ。




それなら、当主である父から彼らを切り捨てる他ない。




それしか、2人を帰す方法がないのだ。




私は強く目を瞑った。




「ふっ…ははは…まさか、葉音が僕にお願い事をするなんてね」




父の乾いた笑いに、私は寒気がした。




頭を上げようと思うけれど、父の顔を見ることが怖くて体が勝手に震える。




「父である僕としては、娘の成長を嬉しく思うよ。あれほど僕を避けていたのにね。




でも、可愛い葉音の頼みでも、それを叶えてあげることはできない。葉音も分かっていると思うが、これは彼らが決めたことなんだ。僕は彼らの意思を尊重するよ」




意思を尊重する?




違う、あり得ない。




あなたは自分がいらないと思ったもの全てを踏みにじる人。




私の意思ですら聞き入れたこともないくせに。




父は2人を利用しようとしている。




一体、何に…?




父にこれ以上言っても、無駄だろう。




2人に利用価値があると思っているのなら、絶対に手放すことはない。




仮に、2人を説得できたとしても同じだ。




むしろ、これ以上何かを言ってしまえば、昔のような苦痛が待ちわびている。




それだけは耐えられない…




私は顔を上げる。




「お父さん、久しぶりの再会ですので、私たちだけで話して来てもいいでしょうか」




「勿論だよ」




父の笑顔に、私は未だに慣れない。




何かを面白がっているような、けれど、仮面のような笑顔。




真っ黒な瞳は闇のようで、私を吸い込んでいく。




逸らしたくても、逸らせない。




父といると、息苦しくなる。




どうして私は、この人のもとに生まれてきてしまったのだろうか。




どうすることも出来ない事実に、私は絶望するしかなかった。