では、同居でお願いします

「彼女であったとして、井波さんはそれで平気ですか?」

意地悪な質問だと思う。

(平気なわけない。でも、それを言うことなんてできないのに)

私の心の中を、敏感な諸岡さんが読み取れないわけはなかった。すぐに彼は謝罪する。

「すみません、余計なことをお聞きしました」

「いえ、これは……きっと従兄弟の社長を、どこか兄のように想っていたから、寂しいなって、そんな感情です」

本音を言えば、「兄」ではなく「弟」としてみている気はするが、そこはちゃんと裕哉を立てて「兄」ということにしておいた。

こんな誤魔化しなどお見通しだろうと思ったけれど、諸岡さんは目元を緩めて笑った。

「あなたの気持ちを聞いて安心しました。実はこれは私が感じただけなのですが、社長はあなたのことをとても気にかけておられまして、彼女から交際を申し込まれているのに、どうにも態度が煮え切らないのです」


(裕ちゃんが、私を?)


心臓が早鐘を打ち始める。

まさか、裕哉も私のことを……?

けれど諸岡さんの次の一言で、甘い気持ちはガラスのように砕け散る。


「一人暮らしをする従姉妹を放っておけないと、それこそ兄としての感情が強いようです。何かあった場合には、海外のご両親に申し訳が立たないとおっしゃっていました」

「…………そうですか」


気にかけてくれていることは、とても嬉しい。

けれどその気持ちが同じ方向を向いていないことが、とても寂しかった。