諸岡さんの言葉が呑み込めなくて、きょとんとしてしまった。
「……は?」
半開きの唇から、間抜けな声がこぼれた。
「実は社長には、秘密がありまして……」
話し出す諸岡さんの声が、そこで低められたから、私は前屈みになり少し身を寄せる。
(裕ちゃんの秘密? 何があるの?)
実はもう結婚している、とかだったらどうしよう。
せっかくの夜景なのに、今は窓の外を見る余裕もなかった。
早く知りたい、でも聞くのが怖い。
胸の中がぐちゃぐちゃになり、どれが自分の感情なのかわからなかった。
「今、対外的にはまだ秘密なのですが、社長はとある女性とお付き合いを考えられています」
ああ、そのことか、とある意味ホッとする。
そのことならもう知っている。
「……内海さんとおっしゃる方ですか?」
「ご存知でしたか」
意外だ、と言いたそうに目を丸くした諸岡さんに、頷くきながらさらりと言う。
「はい、二度ほどお電話があったので」
「社長は、井波さんには彼女とはどういう関係かは伝えられましたか?」
「いいえ、でも彼女ですよね?」
尋ねると、諸岡さんはいくらか同情するような表情を見せた。

