裕哉への想いは誰にも知られていないと思っていたのに……。
目を丸くしている私を見て、諸岡さんは苦笑する。
「そんなに驚かないでください。私はどうやら人の感情の機微に少しだけ敏感のようです。特に社長とは長く一緒にいるので、あの方に対する女性の態度というものをずっと見続けてきましたから」
残念ながら、私自身にはあまり縁のないものですが、ともう一度苦笑する。
私は慌てて首を振った。
「違います! あの、誤解されているようですが、社長は従兄弟ですから、赤の他人よりも近しい存在に見えるだけだと思います」
「ええ、存じております。あなたが働き出してしばらくしてから、私にだけ教えてくれました」
「……そうですよね」
諸岡さんには並々ならぬ信頼を置いている裕哉が、話していても不思議ではなかったのに、社内では秘密だと言っていたから、誰も知らないと勝手に思い込んでいた。
「井波さん、ところで相談なのですが」
「はい」
口調を改めた諸岡さんに視線を向ける。
相談とはなんだろうと、彼の顔を見つめた。
「私とお付き合いをしてくださいませんか?」
一瞬、店内が静まったような感覚を覚える。

