こんな重い話を部下からされたら迷惑だろうと、そんなことは重々承知なのに、どうしてだろう。
諸岡さんなら聞いてくれそうな甘えた考えが私を突き動かした。
「諸岡さん、少し、私の話を聞いていただけませんか? あまり気分の良い話ではないのですが……」
「先程、マンションの前に立っていた男性のことですか?」
やはり諸岡さんは気付いていたんだ。
あの男に気付き、その上で食事に誘ってくれたのだ。
なんていい人なのだろう。
なんていい人の下で仕事ができているのだろう。
嬉しくて胸が一杯になる。
「私の、浅はかな過去の話です」
そう前置きをして、藤川との邂逅を話し始めた。
高校生の甘えた考えの、恋とも呼べないあの関係。
今まで、思い出が痛すぎて、そして情けなくて誰にも言えなかった過去。
諸岡さんに軽蔑されるかもしれない。
そう思うと怖かったけれど、ずっと頷き、見守るような穏やかな目を向けてくれている諸岡さんに、私は包み隠さず全てを話した。
なぜ今も藤川が私に執拗に絡んでくるのかはわからない。ただ私は前に進むために決着をつけたい。
最後にそう告げた私に、諸岡さんはドキリとする言葉を告げた。
「前に進むのは、社長のためですか?」
「え……」
心臓が一つイヤな音を立てた。

