暗い海に点々とレインボーブリッジの光が連なり、対岸には東京湾の夜景が広がり、見ているだけで癒されていく。
「……素敵なお店ですね、彼女と来たりするんですか?」
席に着き、向きあう諸岡さんに尋ねると、笑いながら眼鏡を押し上げた。
「いえ、残念ながら仕事を始めてからは社長一筋で、お付き合いしている女性はおりません。この店は一度会食で連れてきていただいて以来、社長も気に入られている店なのですよ」
「そうなんですね」
まだまだ裕哉の知らないことがいっぱいある。
この店を裕哉が気に入っているのか、と辺りをクルリと見回す。
静かにピアノの曲が流れているが、気にならないほどの音量で、座席の配置もゆったりとしており、会話と食事を存分に楽しめるような気遣いが感じられた。
それはつまり諸岡さんの気遣いと同じだった。
一度瞬きをし、外の夜景を眺めてから、何も問いかけてこない諸岡さんに向きあった。
「今夜はありがとうございます。そして申し訳ありません」
「いえ、私のわがままで食事までお付き合いさせてしまいました。お疲れなのに強引にお連れしてしまいすみませんでした」
相手に気を遣わせない心遣いと、詮索をしようとしない彼の姿勢に、なぜだか全てを話したくなってしまった。

