では、同居でお願いします

「井波さん? どうされましたか?」

私の態度がおかしいことに気がついたのだろう。

諸岡さんはゆっくりと車を進めながら、私の住むマンションの前、つまり藤川の前を通り過ぎ、そのまま住宅街を抜け、元の道路を走り出し、路肩に車を止めた。


「井波さん、よければこのまま食事をご一緒できませんか?」

「…………」


まともな受け答えが今はできない。

考えることを頭が許してしてくれず、私は黙って頷いた。


すぐに諸岡さんはどこかへと電話をし、車を発進させる。

静かなエンジン音だけが支配する車は、諸岡さんの丁寧な操作で二十分ほど走っただろうか、やがてとある場所で車を止め、助手席のドアを開けて手を差し出した。

「こちらで食事をお付き合いくださいませんか?」

躊躇したけれど、そっと諸岡さんの手に手を重ね、誘われて車から降る。

お洒落な外観のイタリアンレストラン。すぐ側が海で、レインボーブリッジが綺麗に見えている。

思わず声を上げた。

「素敵……」

「味もなかなかなんですよ」

ふわりと笑う諸岡さんの笑顔を見た途端に、さっきまでカチカチに凍り付いていた心が溶け出すのを感じた。

「さあ、入りましょう」

さすが気遣いと迅速な行動力を持つ諸岡さんは、どうやらすでに予約をしていたようで、私たちは窓際の夜景の綺麗に見える席に案内される。