では、同居でお願いします

「大丈夫ですよ。約束した以上、一時間でも二時間でもお待ちしますから」

笑いかけると、諸岡さんもようやく表情を緩めてくれた。

「帰っていたらどうしようかと思ってしまって……いてくれて良かった」

ほうっと深く息を吐いた諸岡さんの姿に違和感を覚える

どうしてそこまでして私を送ることにこだわるのだろう?

何か裏がありそうな気がしてきて、さっきまでのそわそわしていた気持ちがしぼんでしまう。

「では行きましょうか、井波さん」

「……はい」

立ち上がった私は、緊張の面持ちで諸岡さんの後に続いた。


社用車はハイブリッドの高級車で、走り出しはとても静かだ。

スッと伸びやかに走り出す様が、裕哉にとても似合っていると思っていたが、本当は諸岡さんにこそ似合っているように思えた。

「今日は本当にご心配おかけしてしまい申し訳ありません」

こんな些細なことで車を出してもらうのは心苦しく、恐縮するわたしに、運転席の諸岡さんは口元を引き上げる。

「私が送りたいと無理を申し上げたのですから、井波さんが謝ることなど何もないです」

相手に気を遣わせないための紳士な言葉に、裏があるのではと勘ぐった自分が恥ずかしくなる。

諸岡さんは心配してくれていただけなのに、私の心はなんと穢れていたのか。

車で行けばほんの二十分。寝不足で疲れていただけにありがたかった。