では、同居でお願いします


「私、一人で帰れますが?」

「今日は本当に疲れているように見えます。お住まいのマンションが駅から遠いとおっしゃっていましたよね? どうせ社用車を出すついでですので、私に送らせてください」

「でも……」

「少しは心配させてください。あなたは私の大切な部下なのですから」

「なっ……!」

フッと微笑むと一気に柔らかな雰囲気になる諸岡さんに、私は言葉を失い、頬が少し熱くなる。


なんてことをサラリと言うのだ。


甘い言葉に優しい笑顔。

この人は案外、磨けばホストにでもなれそうではないか。

少し弱った心に、矢のように彼の言葉が突き刺さった。


(やっぱり……諸岡さん、すごく素敵な人だなぁ)


隙のない身のこなしやキリリとした眼鏡姿が近寄りがたい怜悧な印象を与えてしまう。しかも常に隣には華のある裕哉がいるから、視線はどうしても社長に向かってしまう。

歳は裕哉の一つ下と聞いているから、二十六歳なのだが、印象としては三十を過ぎたような落ち着きがある。
最初、裕哉より年下と聞いて驚いたものだ。

物腰は丁寧で気遣いができて頭も切れる。しかもこの優しさ。

とても優良物件なのに、女子の皆さんに知られていないのがとても惜しい。

そんなことを考えている私の頭を軽くポンと叩いた諸岡さんが、笑いながら念押しをした。

「いいですね? 絶対に待っていてくださいよ。一人で帰ったりしたら怒りますよ?」

まるで子どもをあやすような優しい口調に、なぜか少し泣きそうになる。

黙ったままコクリと頷いた私に、満足と安堵の交じった笑みを浮かべた。