「社長、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。問題ありませんので、これで失礼いたします」
少しだけ声が震えたかもしれない。
手の届かない神様に恋い焦がれてしまった惨めな姿を見せたくなくて、私は急いで社長室を後にした。
昼過ぎ、裕哉と諸岡さんが外出してから私は事務作業に没頭していた。
経理へ提出書類、各部署とのやり取りなどを終えて秘書室に戻る途中、販売機の置かれた休憩スペースから女子社員の噂話が聞こえてきて私は足を止める。
「この間、社長が女の人と歩いてるの見たよ~」
「ええ! やっぱり彼女いるんだぁ、ショック。どんな人?」
「美人ってわけじゃないけど、お嬢様って感じだった。絶対どこかの社長令嬢だよ、あれは」
「あ~あ、私の玉の輿は消え去ったわ」
「そりゃそうよ、シンデレラでも夢見てたの?」
あはは、と屈託のない笑い声が上がる。
私は胸を衝かれてキュッと唇を噛み締めた。
今の言葉は、私に言われた揶揄だ。
他愛ないおしゃべりをしている女子社員には毛頭そんなつもりではないのは承知だけれど、自分のことを言われたように感じて、全身が痺れて立ちつくす。

