では、同居でお願いします

「ありがと……?」

裕哉のスマホを握りしめたまま凍り付いている私を不審に思ったのか、裕哉は訝しげに眉根を寄せ、すぐにディスプレーの名前に気がついたようで、慌てて私の手からスマホを取り上げ通話し始めた。

「佐和乃さんですか? 仕事中の電話は……え? 週末ですか? すみません、予定が入っていまして……」

ボソボソと私に背を向けて小声で話す裕哉から視線を外す。

(遠くから見ているだけでいいと思っているのに……こんなに胸が痛むんだね)

裕哉の背中に抱きつきたい衝動に駆られてしまう。
もっと私の近くにいて欲しいと願ってしまう。


彼女なんていなければいいのに――。


フッと自嘲して虚しくなる。

こんなことを考えている自分があさましい。これ以上考えてしまえば、卑しい人間になってしまう。

通話を終了した裕哉が振り返る。


――ああ、やっぱり好きだな。


思うと同時に、私は気を引き締め深々と頭を下げた。