では、同居でお願いします

ふう、と小さく息を吐き出した裕哉が静かに告げる。

「海音ちゃんは手放せない。こんな家事のできる人、手放せないよ」

(て、手放せないって、そんな!!)

ドクンドクンと耳の奥でうるさく鼓動が鳴り響く。裕哉の告げた言葉を噛み締めるようにもう一度心の中でなぞらえて――

「…………ん?」

違和感を覚える。


――家事のできる人…………?


眉根を寄せる私の耳元で裕哉が再び口を開く。

「他人のように気も遣わないし、家政婦さん以上にせっせと家事をしてくれるのなんて海音ちゃんくらいしかいないよ。海音ちゃんが結婚したら、僕はどうしたらいいんだよ」


「………………」


――知るかぁ! と言って背負い投げでもしてやりたい衝動に駆られる。

(そっちですか! 家政婦の転職を拒む雇い主の感覚か!)

僕はどうしたらいいんだよ、なんて甘えたことを言ってるから、こんな汚部屋に住むようなダメ人間に成り下がっているんだと言ってやりたい!

「お風呂、準備してきますっ」

ムッとしながら裕哉の腕から抜け出して、私はバスルームへと向かう。
ホテルのように広い洗面台の鏡に映った私の顔は、案の定、般若のようになっていた。

「なんなの、あれ!」

ダメ男の典型ではないか。

相手を誤解させるような言葉を平気で言い、依存しきって生きている、下手すれば『快適ヒモライフ』を謳歌しそうなタイプだ。

裕哉はその点、若き社長としてハードワークなほど仕事をこなしてはいるけれど。