身動きを止めたから、きっと裕哉は「Yes」と悟ったはずだ。

イヤな汗が背中に浮き、心臓が早鐘を打ち始める。私の緊張は裕哉にも伝わっていく。

「海音ちゃん」

何を言われるのかと肩を強ばらせる私の背中を優しく撫でてくれながら、裕哉は静かに言った。

「ごめん、僕が性急だったね。海音ちゃんは男に対してイヤな思いをしているのに、いきなりこんなことを言って、怖がらせたね」

どう返事をしていいのか、頭の中が混乱していて言葉をつかみ取ることができないで、ただ黙って裕哉の胸に額を預ける。

「実はさ、仁から海音ちゃんが僕を意識していると言われて、つい舞い上がってしまって……それに仁に取られたくないって気が焦ってしまったんだ」

「そんなことを諸岡さんが……」

裕哉を意識していることを勝手に暴露しちゃったんだと、ちょっと恨みたくなる。

裕哉に対してだけは、諸岡さんは口が軽いというか、ラフに付き合っているようだ。
気の置けない間柄なのだろうが、人のことを暴露するのはいただけない。

「海音ちゃんが僕を怖いと言うなら、ちゃんと距離を取る。むやみに近づかない」

「ううん、裕ちゃんを怖いと思ったことないよ。ただ……踏み込むのが怖いだけ」

「じゃあ、僕が近づいたり触ったりするのは大丈夫なの?」

コクリと頷けば、裕哉はいくらか間を開け、それから噛みしめるようにゆっくりと口を開いた。