――神様……どうすれば、私は動き出すことができますか?
好きなのに……。
こんなにも彼のことが好きなのに、どうして踏み出せないの?
胸が苦しくて息が吸えない。
裕哉の胸の中は心地よいのに、とてつもなく苦しい。
「怖いの……」
消え入りそうなささやきが、意図せず唇からこぼれ落ちる。
自分にさえ聞こえるか聞こえないかの小さな声なのに、裕哉は迷わず拾ってくれた。
「怖い? 僕が怖いの?」
ゆるゆると首を振れば、裕哉の香りがふわりと広がる。
「違うの……多分……信じることが……怖い」
ポツリと呟けば、裕哉はさらに包み込むように柔らかく抱き込んでくれる。
(安心する……裕ちゃんの香りもこの温もりも)
「海音ちゃん……もしかして」
裕哉は低く重い声で、遠慮がちに聞いた。
「それはストーカーをされたことと関係がある?」
息を止めた。
私の前では無邪気な姿を見せる裕哉だけれど、本当は鋭い人だ。
わずかな情報であっても様々な角度から読み取り、結論を素早く導き出せる手腕をもった切れ者なのだ。
ほとんど欠片とも呼べないほどの私の言葉をひもといて、ストーカーとの答えに行き着いたのだろう。

