(私は……怖いんだ)
裕哉に釣り合わないだとか、勘違いだったと言われてしまうかもしれないとか、お世話だけして欲しいと言い出すんじゃないかとか。
(結局、裕ちゃんを信じられず、自分が傷つくのが怖いんだ)
それはきっと藤川という男に、背負わされてしまった思い出のせいかもしれない。
信じて、けれど裏切られバカにされて、自分の存在の情けなさを思い知らされた。
あの頃から歳だけは取ったのに、心は成長していない。
裕哉を信じて大きく一歩を踏み出すことができないまま、私はここで立ち止まる。
黙りこくった私の手を、裕哉は優しく包み込む。
ハッとして顔を上げると、裕哉は黙って私の手を引き寄せ抱きしめた。
「海音ちゃんは……僕のことはやっぱり従兄弟以上には考えられない?」
あれほどテンション高く「結婚して」と言っていたのに、今、問いかける声は不安に揺れている。
ごめんなさいと、心の中で謝る。
(裕ちゃんを不安になんてさせたくないのに、私の態度が不安にさせている)
それでも私は足を踏み出すことができない。

