では、同居でお願いします

そうでなければ、裕哉ほどの好条件の相手になびかないはずはない。

若くして社長で、その上容姿端麗、性格も穏やか(部屋は別として)、非の打ち所がない人だ。揺らぐ心を抱えていたら、きっと簡単に付き合ってしまうだろう。

その裕哉が思いがけない提案をした。

「紀ノ川七段、彼女を取り戻しませんか?」

「は、はいいい!? ぼ、僕がででででですか?」

明らかに「で」が多い。それほど紀ノ川さんは焦っている。

パカーンと口を開いたまま、呆然としている紀ノ川さんに、私も後押しをした。

「紀ノ川さん。私は紀ノ川さんと裕ちゃんと両方から話を聞いて、もう彼女の気持ちは間違いないと思います。紀ノ川さんだって忘れられないんですよね? 思い切って彼女を取り戻しましょう」

ギリギリと油の切れたゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちなく首をこちらに向ける。

「私と裕ちゃんとでお膳立てします」

「でででも……僕は……」

こんなに押しも決断も弱くて、この人は本当に大丈夫なのだろうか。

裕哉は天才棋士だなんて言っていたけれど、とても信じられない。

「紀ノ川さん、彼女に本気でぶつかってみるって決心したんじゃなかったんですか? 絶好の機会なんですよ?」

私は強く紀ノ川さんを鼓舞する。