「佐和乃さんの想い人は、あなたではないのですか? 紀ノ川七段」


ハッと息を飲み込んだのは、私だけではなく紀ノ川さんも同時だった。


(まさか……そんなことが)


チラリと見たお嬢さん、あの人もまだずっと紀ノ川さんのことを想い続けているのだろうか。

それならば、相思相愛でハッピーエンドになるのでは?

目を見開き呆然とする紀ノ川さんの肩を、裕哉は強くつかむ。

「あなたでしょう? 紀ノ川さん。佐和乃さんの想う相手は、あなたなのでしょう?」


その一言は、神様からの福音のよう。


紀ノ川さんはまるで魂を天使に引き渡したような、呆けた顔で裕哉を見続けていた。

今にも天に召されてしまうのではないかと、少しドキドキしてしまった。